旧法による相続
相続手続きのために戸籍の記載を遡って確認していると、「家督相続」という文言が頻繁に出てきます。
家督相続とは、明治31年7月16日から昭和22年5月2日までに開始した相続に適用された概念です。この根拠は旧民法の規定によります(さらに古い、いわゆる旧々民法についてはここでは触れません)。
現在と異なり、旧民法における家督相続とは、系譜、祭具、墳墓などの承継を含む、身分の相続を意味しました。戦後、応急措置法(日本国憲法の施行に伴う民法の応急的措置に関する法律(昭和22年法律第74号))の施行によって家督相続が廃止されてから70年以上経過しましたが、相続において旧民法の占める割合は決して小さくありません。
※旧民法が関係する相続案件には、まだまだ眠っているものが多数あると思われます。長期間相続登記未了の不動産は、所有者の探索が困難になりますし、災害からの復旧や公共事業にも影響します。
例えば、登記簿上、「大正13年〇月〇〇日 売買」を原因として不動産を取得した所有者(戸主)が、昭和10年〇〇月〇日に亡くなっているような場合です。
この場合、明治31年7月16日から昭和22年5月2日までに生じた戸主の相続に当たりますので、原則通りの家督相続になる可能性が高い、と当たりをつけて戸籍を読み進めます。家督相続の届出がなされて戸籍上にも家督相続の旨の記載があれば何の問題もありません。「昭和10年〇〇月〇日 家督相続」を原因とする相続登記の申請となります。
ところが、死亡した戸主に子(直系卑属)も父母(直系尊属)もおらず、家督相続人の指定もなく、除籍や原戸籍を調べても、家督相続に関する記載がどこにも見当たらない・・・ということが起こり得ます。
ここで登場するのが民法附則第25条第2項です。上記のケースで家督相続人が選定されていない場合、この規定によって新法が適用されることになります。
しかしながら、新法を適用すると、現在とほぼ同様の共同相続になりますので、場合によっては相続人が数十人以上になることがあります。
<参考>
民法附則
第25条 応急措置法施行前に開始した相続に関しては、第二項の場合を
除いて、なお、旧法を適用する。
2 応急措置法施行前に家督相続が開始し、新法施行後に旧法に
よれば家督相続人を選定しなければならない場合には、その相続
に関しては、新法を適用する。但し、その相続の開始が入夫婚姻
の取消、入夫の離婚又は養子縁組の取消によるときは、その相続
は、財産の相続に関しては開始しなかつたものとみなし、第二十
八条の規定を準用する。
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